2011年12月アーカイブ

1.中越地区の高校入試
 
 今回は、新潟県中越地区の高校入試について絞って書きます。この地区は、おそらく全国的に見ても本当にのんびりしている学区です。すなわち高校入試とは名ばかりの高校入学確認試験が行われているにすぎません。
 統計的にも倍率は、ほとんどの高校で1倍前後(すなわち不合格のほうがむずかしい)、都市部に比べると、非常にのんびりしています。のんびりしていること自体、悪いとは思いません。しかしその問題点を今回は書きます。
 まず平成23年度の各公立高校の倍率一覧です。
 
<長岡高校 1.11 長岡大手高校 1.42  向陵高校 1.43 小千谷高校 1.25 小千谷西高校 0.98 小出高校 0.98 国際情報高校 0.96 六日町高校1.06  八海高校 0.77 十日町高校 0.93  十日町総合高校 1.08(新潟県公式ホームページ2011年3月2日発表)>
 
 軒並み一倍を切っています。これはどういうことを意味するのでしょうか? 親御さんにしても、お子さんにしても、心配が少なくて良いことでしょうか?
 
 近くで観察していてわかるのですが、受験直前の2月末、最終的に自分の受験校が1倍を切ると、生徒さんの顔に、安堵の表情が浮かびます。まあ子供のことですし、気持ちはわかります。しかしこうして本来の学力を伸ばすチャンスに、それを生かせなくなるのです。そのときはよくても将来困ったことが起きます。本来は、受験を通じて、真の実力と経験が身につくからです。高校入試はそういう学力を伸ばす数少ないチャンスなのです。楽であればある程、人は努力はしません。
 
 もちろん高校受験が厳しければ、失敗する人も出てきます。ある男子中学生で、長岡高校に落ちた子がいました。でもその生徒さんは、二次募集で入学した一般高校で3年間がんばり抜き、一流大学に合格しています。99%合格するこの地区の高校受験で、失敗するのは、十五歳の彼にとって、かなりつらい事だったはずです。しかし彼は、その失敗があったからこそ高校時代にがんばれたのだと、私は思います。全力で高校入試に取組んだ事で、失敗からも学ぶことができたのです。そもそも高校受験に失敗したくらいで、人生なんて決まりません。挽回のチャンスはいくらでもあります。大学受験で高校受験の借りを返せばいいのですから。しかしこうしたケースはあくまでもこの学区では例外的なものでしょう。
 
2.大学進学準備の遅れ
 

 一般的に、こうしたギャップがいつ表面化してくるのか? この地区のお子さんの多くは、高校3年生の夏休み頃に気づきます。でも、それでは遅すぎます。

 この時点になって、中越地区の受験レベルが、全国のそれとあまりにも格差が広がってしまっているからです。多くの能力ある公立高校生が本来の実力や希望に見合った大学に進めない状況があるのです。この点こそ、私が日頃から、本当に惜しい、と考えている点です。なぜならば基礎学力は、実は中学時代を通じて、高校入試を通じて一番養われると、私自身は考えているからです。

 日頃の中学生を観察していると、教育を社会で無用な、単なる勉強すること、と一面的にとらえている意識が散見されます。これでは、本当の意味で、学習意欲は育ちません。意欲がなければ、日常の学習習慣が身につかないのです。その結果、都会と地方、あるいは都市部と農村部との教育格差はますますひろがります。これは将来の経済格差や治安悪化につながりかねないのです。これからの日本は、いかに一人一人が個人としてしっかり生きていくのか、という、良くも悪くもアメリカ型の社会に近づいていくでしょう。

 私の知るお子さんでこういうケースがあります。彼女は、地区のある中学でトップの成績を維持し、生徒会長までつとめました。ところが本来の学力で言えば、進学校を選ぶはずが、近場の進学校があまりにもガリ勉一辺倒である噂を鵜呑みにしてしまって、その学校を毛嫌いしてしまったのです。結果として、ある一般高校へ進学したのですが、部活のブラスバンドには熱中したものの、以前程の熱意を勉強に感じなくなり、ふつうの女子大に進学していきました。大学入学後、本人と話す機会があり、卒業後の希望を聞いたところ、一流企業の名前を出していました。私は、本人にはもちろん否定的な事は言いません。しかし、私には、はっきり分かっているのです。彼女の在籍している大学からその企業に入社できるのは、縁故のみだということを...

 本来、個人の能力に都会も、田舎もありません。しかしそれに見合わない環境や機会を選らばらざるを得なかったとしたら、能力や本来意欲のあるお子さんの就業チャンスは限られたものになります。私自身、親御さんの不安をあおっているわけではなく、日本の実情を十分に知り、同様にアメリカでの生活経験からも、この点こそが本当に心配な点なのです。わずかな知識と努力でなんとかできれば、田舎生まれでも、その子どもさんの可能性は、広がります。それが日本やアメリカの良い点なのです。すなわち教育がチャンスを広げる機能を果たしているのです。そのことを理解し、しっかり準備する事は、本人にとって決して無駄な努力ではありません。このことは周りが整えてやらなければ、中学生のお子さんにはわかりません。

 ここ2〜3年の新聞記事を抜粋します。
 
<東京都教育委員会は、2/8(金)に平成20年度都立高校の一次入試応募状況を発表した。全日制の平均倍率は1.45倍。昨年1.43倍とほぼ同じとなった。最高倍率は男子、女子共に日比谷高校で男子3.99倍、女子2.74倍。(東京都公式ホームページ)>
 
<東京都生活文化スポーツ局は31日、08年度の都内私立高校一般入試の中間応募状況を発表した。調査は28日正午現在のもので、全日制は191校で2万1690人の募集に対し、4万7061人が応募した。平均倍率は07年度比0・17ポイント減の2・17倍となった。倍率が最も高かったのは、男子校が学習院高等科(豊島区)の普通科一般2回目の7倍、女子校が豊島岡女子学園(同区)の6・07倍、男女校が青山学院高等部(渋谷区)の12・36倍だった。【木村健二】(毎日新聞 2008年2月1日)>
 
 この格差が、大学入試のときに一気に中越地区の生徒さんにふりかっかってくるのです。実際指導して、出会うお子さんの中には本当に基礎能力の高い高校生がいます。びっくりするくらいです。ところが学習意識がいかんせん低い。それでは、残念ながらよい大学には合格しません。それどころか、本来その能力を発揮できる場さえ限られてしまうのです。本当に本当にもったいないことだと思います。

天理高校総合.jpg

今回から、この10年の指導実績の中で、印象的な生徒さんのケースを、ご紹介していきます。

より具体的に私たちの指導内容をお伝えするためです。もちろん生徒さんのプライバシーや地域等は特定できません。個人情報は一切記載しません。そして現在指導中の生徒さんには、一切言及していませんし、関係もありません。こうした個人情報を公開しなくとも、指導の具体的な内容は十分お伝えできると思います。今回ご紹介するのは”Aさん”のケースです。

人の縁というものは不思議なものです。Aさんは、関西の私立高校である天理高校への進学を決意し、合格されました。新潟県から奈良県の私立校へ、まったく地縁も血縁もない見知らぬ土地の学校にどうして進学を決意されたのでしょうか?

1. 指導開始時は?

Aさんは、地元の普通中学3年生で、受験前年9月から、指導をはじめた生徒さんです。彼女の学習面での問題点は数学が極端に遅れていることでした(分数計算が怪しいレベル)。その一方で英語は非常によくできる生徒さんでした。

生活面では、中学2年の1学期に、先輩女子のいじめを受け、2学期まで不登校を繰り返していた時期がありました。主に、この問題が数学の遅れに直結していたようだったのです。しかし人柄は明るく、部活動にも積極的なお子さんでした。おそらく目立つタイプの生徒さんだったので、上級生の誤解を生み、いじめのターゲットになったように私には思われました。非常に考え方がしっかりしており、将来は大学にも進学して、心理療法士をめざしたい、と言っていたのを覚えています。

そのAさんが、ちょうどいじめを受け、苦しんでていた2年生の夏休み、天理高校のブラスバンド部顧問の先生のお話を聞く機会があったのです。その時のお話が、彼女の天理高校へ進学したい、と思う気持ちにつながったようでした。それから一段と学校の部活動であるブラスバンドに情熱を傾けるようになっていました。

天理高校ブラスバンド部は全国有数のクラブです。また野球やラグビー部も名門で、全国大会の常連校です。よくテレビでも、学校を応援するブラスバンド部員の様子が放映されていました。彼女は、”自分も甲子園で応援したい”という夢を明確にイメージしたのです。部活動が高校受験を支える動機となることも、よくあることです。そうした状況の中で、あるご紹介から、縁あって学習指導を開始しました。

2. どう取り組んだのでしょう?

最初の2ヶ月は彼女を観察しました。まず、本人のよい点をきちんと認識させたのです。まず英語ができること。県の統一模擬試験で90%以上の得点を取ることができました。しかしその一方で致命的なのが数学です。最初、おそらく20%前後しか得点できなかったのではないか、と記憶しています。残されている期間は約半年。この時点で、彼女が、すべての数学の範囲をこなし、得点できるようになるのは困難だろうと判断しました。

そこでまず、天理高校の過去問と進学資料を取り寄せました。それらの問題を分析し、合格するための必要な学習レベルを把握するためです。同時に現在のAさんの学力で、どのレベルまでできる必要があるかを把握していきます。最初の2ヶ月間は、Aさんが求められる学習レベルに到達できるよう、学習内容や生活を最適化していくのです。

戦略的には、英語と国語で得点を稼ぐこと、数学は計算問題が確実な得点源となるように問題をくりかえすこと、などと指示を絞りました。これで天理高校の合格最低レベルまでもっていけば、あとはがんばりのきく、理科と社会でなんとか合格できると、本人に明示したのです。

3.いや、困った問題点!

どんな生徒さんでも、様々な問題に直面します。このAさん特有の問題点は、目標校との受験環境の違いでした。どれくらいのレベルの問題が出題され、どれくらいできれば合格できるのか、まったく本人は、イメージできないのです。受験指定図書(新研究)と過去問を徹底比較させ、どのレベルまで必要なのか。それらを科目ごとにAさんに周知徹底させました。そして徐々に自分の合格目標値を意識した学習を継続していったのです。新潟県内の学校であれば、進学資料が揃い、それを指針にできます。また合格者も自分の身近にいる場合が多い。そうすればAさん自身も、どれくらいのレベルかを、よりつ安かったでしょう。その基準がないことが最大の問題点だったのです。

関東圏と関西圏は、生活や文化も全く違います。Aさんには、実際に天理高校に赴いてもらい、本当に自分に合いそうなのか、どうかを肌で感じてもらったりもしました。

4.そして最後は?

大小多くの山を乗り越えました。実力はつきました。しかしやはり合格基準がはっきりしないのです。

滑り止めとして新潟県内の公立高校も受験することにしました。天理高校の入試日は、2月下旬。私自身もできることはやった、という思いで、Aさんを送り出したのです。

結果は?そう、”合格”です。

学業面だけでは正直、厳しいと思っていました。それが合格。本人以上に、私も大喜びでした。

天理高校は、5教科の学力試験だけではなく、小論文や面接まで行い、全人的な審査プロセスを取っていました。このことも彼女にとって、幸いでした。面接試験では、彼女自身のユニークな境遇や動機なども、十分にアピールできました。一見不利にも思える、新潟県からの受験やいじめを受けた体験さえも、志望動機を補完する経験だからです。

人の人生にはいろいろな段階があります。そのときには、苦しいだけとしか思えないことでも、人生の後の事柄に結びつくともあります。”いじめ”は、昔からありました。それは自らにも原因があり、周りにも原因があります。だからといって悩んでばかりいてもしょうがありません。解決策の一つは、夢中になることを見つけることではないでしょうか。好きで、取り組めることを見つけると、今まで解決不可能と思えた問題も、どうでもよく見えることがあります。Aさんのように、苦しくてたまらなければ、無理に学校に行くことはありません。でも一息ついたら、その問題の解決へ踏み出す勇気が合格という結果に結びついたのでした。もちろん、運もよかった。でもその運さえも踏み出す勇気がなければ、実現しなかったでしょう。私も生徒さんから、人生を学んでいます。

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